よるとあさの歌 レビュー
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松岡禎丞の鬼気迫る演技に息を飲む 原作の上を行く”聴くべき”一枚
バンドマン同士のかなりダークでディープな、それでいてピュアな恋を描いた作品です。
原作ははらだによる漫画で、原作の雰囲気にかなり忠実に描かれています。
金髪で柄の悪い朝一はインディーズバンドのボーカル。地方から上京してメジャーデビューを目指す毎日を送っています。そんな朝一のバンドに新メンバーとして加入したのがヨル。背が高くて見た目も良く、作曲もできるヨルは朝一に憧れ、慕っています。
実はヨルはメジャーデビュー一歩手前までいったバンドのボーカリストでした。しかし同じバンドのメンバーはみな実家の稼業を継がなくてはならず、実力もあり人気もあるバンドだったにもかかわらず解散しています。そしてヨルは朝一と同じバンドで活動するため、ボーカルからベースに転向しての加入でした。
佐藤拓也&松岡禎丞 声優の演技が素晴らしすぎる!
ヨルを演じるのが佐藤拓也。淡々としていて感情の起伏が少なく、ひたすら純粋に朝一を追いかけています。
そして朝一を演じるのが松岡禎丞。自分が一番、自分が中心でないと気が済まない典型的な「イヤなヤツ」です。そもそも朝一がバンドを始めたのは「女の子にもてたいから」という理由。
朝一のバンドに加入してきたヨルを朝一は煙たがっていて、まともに相手にしません。
そんな中、あるライブの後。アンケートに貼ってあったプリクラを見て、朝一達はファンの女の子に電話をかけて一緒に打ち上げをしようと誘います。打ち上げは口実で、ただヤリたいだけの朝一と他のバンドメンバーはホテルで飲み会の最中に部屋を暗くし、女の子たちと絡み合い始めます。
そして暗闇の中、朝一は間違えてヨルに手を出し、抱いてしまうのです。
朝一にとってヨルは目の上のたんこぶ。
イケメンで音楽の才能もあって女の子からも人気があり、それだけでも許せないのに、なぜか自分を慕っているというのも気に入りません。そんな朝一のイラつきを松岡禎丞がとてもリアルに演じています。
憎たらしいのに魅力的で、嫌いなのに惹かれていく。
自分の中の相反する感情と心の叫び、どうにもならないもどかしさに聞いているこちらが焦燥感を煽られるのです。
終盤でファンの女の子を怪我させた朝一は、ヤクザである彼女の兄から報復を受けます。このときの松岡禎丞の演技は背筋が寒くなるほど現実味を帯びていてゾクッとしました。
松岡禎丞出演のBLCDは何枚か聞いていて、どれも良いとは思っていましたが、今までは「あぁ、いいな」という軽い感じ。しかし「あさとよるの歌」の松岡禎丞を聞いて、「松岡禎丞はすごい声優だ」と初めて強く感じました。声優になるべくしてなった人なのだな、と。
そして朝一がひどい目にあわされたことを知ったヨルはヤクザの元へ仕返しに向かいます。
1人ヨルを待つ朝一の心の動きも、説得力がありリアルです。
雰囲気を楽しむ作品というよりも、ヨルとヤクザ組を除くほぼすべての登場人物がマシンガントーク並の早口なので、急いで展開を追いかける作品です。
また、キーパーソンとなるファンの女の子を演じた声優の声もキンキンしていて正直耳にキツイのですが、上手いです。
そしてすごい早口で展開されていく流れの中で、朝一の心の揺れが見事にその流れに乗って描かれていて、朝一のもどかしさや怒り、くやしさをうまく浮き彫りにしています。
ヨルを演じた佐藤拓也の低く静かなトーンとも対比もまた効果的。
そして絡みでの佐藤拓也の男っぽい色気は必聴です!
ダークかつディープな作品なので聴く人を選びますが、この作品の聴きどころは何といっても松岡禎丞の鬼気迫る演技。
音声化されたことで、そして松岡禎丞の秀逸な演技で原作をさらにパワーアップさせた作品になっています。
(ライター 矢吹良子)
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