ユーリ!!! on ICEってBLなの?! 今更だけど、レビューします!

2016年10月~12月の間に放送された深夜枠のアニメ、「ユーリ!!! on ICE」
今更ですが、拝見しました。
正直アニメにはあまり興味がなかったのですが、たまたま少しだけ内容を目にする機会があり、「あれ、これってBLアニメ?」と気になり、1話から全部をチェックしてしまいました。

結論から言えば、BLではなく青春スポーツアニメとして描かれています。
しかし、内容は「これってBLじゃん!!」の一言につき……るかと思ったのですが、腐女子の立場から良ーく考えてみると、「BLであり、BLではない」という微妙なところに落ち着きました。
これは愛の物語です。
そして、かなり高品質で濃密なBLであるともいえます。

 




憧れが愛に変わる?ユーリ!!! on ICEに描かれる師弟愛

 

かなりヒットした作品なので、今更わたしが詳細を説明する必要もありませんが、「ユーリ!!! on ICE」は今時珍しく漫画が原作のアニメではなく、純粋にアニメーションとして作成された作品です。
主人公の勝生勇利は23歳。デトロイトから日本へと拠点を移したばかりのフィギュアスケーター。メンタル面が弱くて試合ではなかなか良い成績が出せません。そんな勝生勇利の憧れはロシアの「生きる伝説」と呼ばれるフィギュアスケーターのヴィクトル・ニキフォロフ。
ひょんなことからヴィクトル・ニキフォロフが勇利のコーチになるために、勇利がいる九州の街を訪れる……というところから物語が始まります。
美貌で長身のロシア人ヴィクトルと、メンタル面が弱くて太りやすい体質のメガネ男子、勇利。
二人は一緒にグランプリファイナルでの金メダルを目指すのですが……。

ヴィクトルと勇利はコーチと弟子。
ところがよくあるスポ根モノに描かれるコーチと弟子ではなく、二人の関係はとってもフランクです。
ヴィクトルは勇利が憧れていた選手だったこともあり、勇利の中には常に尊敬と憧れがありますが、飄々としてマイペースなヴィクトルはとっても自由。にこやかな笑顔で厳しいことも言いますが、血の汗がにじむような、というような描写はあまりありません。
むしろ一緒に温泉に入ったり、勇利の部屋のドアをヴィクトルが叩き「一緒に寝ようよ」と誘うなど、とてもフレンドリーなのです。

ヴィクトルが振り付けたショートプログラムのテーマは「エロス」

 

さて、フィギュアではショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)を滑ります。ヴィクトルは勇利のためにSP用に「エロス」をテーマにした曲と振り付けを提供します。
ヴィクトルが振り付け、ヴィクトルがお手本として滑ってみせてくれた「愛について〜Eros〜」では、男を誘う女の物語が見えた、という勇利。
作品の中で、勇利は「愛について〜Eros〜」を滑る前にヴィクトルに「僕から眼をそらさないで」という、まるで誘うような言葉を継げてリンクへ出ていくという描写があります。
エロスをテーマに、そして男を誘うダンスを踊る前に「自分から眼を逸らすな」と告げるそのシチュエーションそのものがまさに、まさに……なのです!

誰が考えたって、これはもう……もう、でしょう!!という展開なのです。

当然ながら「ユーリ!!! on ICE」はBLアニメとしては描かれていないので、勇利は実に見事な滑りを見せ、観客もコーチであるヴィクトルも勇利の滑りに魅了された、という流れになるわけなのですが、この「描かれていないところ」がいいんです!

はっきりと描かれてはいないけれど、これってそういうことだよね。
この行間にすごくいろいろなものが読み取れるよね?!
という、腐女子でなくても読み取れちゃういろいろな香りが、むしろハッキリ描かれていないことでより濃密さを醸し出しているのです!




ヴィクトルとの愛を見せつける!勇利のスケート

 

さて、勇利はグランプリファイナルに挑む前の記者会見で「今年のテーマは愛」と語っています。
そしてその中ではっきりと、ヴィクトルに対する思いを愛だと言っているのです。

「ヴィクトルコーチが現れて、僕の見ていた景色は一変しました。僕の愛。それは分かりやすい愛や恋ではなくて、ヴィクトルとの絆や、家族や、地元に対する微妙な気持ち。ようやく自分の周りにある愛のようなものに気づくことができました。
はじめて自分から繋ぎ止めたいと思った人。それがヴィクトルです。その感情に名前はないけど、あえて、愛と呼ぶことにしました」

誰かを慕ったり、求めたり、大切だと思ったり。
友情と恋愛としての感情の境目なんて本当は誰にもわからないのではないでしょうか。
そしてそこに大きなプレッシャーを抱えながらともに大きな目標に目指して進む、ストイックな世界に身を置く師弟(同士)ならより一層。
限りなく心が寄り添った状態でずっと一緒に走り続けていれば、それはやっぱりもう、自分にとってもとても大切なもう一つのかけがえなのない存在になって当然だといえます。

これが恋愛かどうかなんて誰にも分らない、分からないものだから名前も付けられない。
けれど、傍から見たらそれは間違いなく愛。
愛にもいろいろな種類があるけれど、
勇利とヴィクトルの間にあるものは、間違いなく深い愛だというのは、あの作品を見た人全てに共通して感じられたと言えることでしょう。




まさかのキスシーン!そして納得のキスシーン!

さて、「ユーリ!!! on ICE」にはキスシーンがあります。
それはヴィクトルと勇利のキスシーンです。
7話、中国大会のFSでプレッシャーに押しつぶされそうになり、試合の直前に泣き出した勇利を前にして呆然とするヴィクトル。
そして思い切り泣いた後でFSを滑り、予定にはなかった4回転フリップをなんと体力の限界に来ている最後に跳ぶのです。勇利に驚かされたヴィクトルが、戻ってきた勇利に思わず(思わず?)キスをして勢いあまって一緒にリンクの上に転がるという描写があります。
ヴィクトルは
「君以上に君を驚かせる方法がこれしか思い浮かばなくて」
と言いますが、キスをされた勇利は照れたようなスッキリしたような微笑みを浮かべます。その笑顔は、良い滑りができたことへの喜びと、ヴィクトルが喜んでいる姿へ安堵と、あのヴィクトルを歓喜させたというアスリートとしての達成感と……と、いろいろなものが読み取れる場面です。
男同士のキスシーンではありますが、突拍子もないことを自由にやってしまうヴィクトルのキャラクターもあり、全体の流れとして不自然ではない展開になっています。
けれど、このキスを自然に受け入れている勇利の姿に、見ている側としてはもう「落ち着くべきところに落ち着いている!」ととっても腑に落ちて納得できてしまうのです!
ここまで爽やかに、説得力をもって男同士のキスシーンが描かれたBLではないアニメなんて、他にあったでしょうか。

実に見事な、そしてすてきなキスシーンでした。




ヴィクトルに触れたい……勇利の本心(本能?)が感じられる場面


「ユーリ!!! on ICE」にはいくつかの印象的な場面があります。スケートの場面はもちろんのこと、ヴィクトルが爽やかに(けれど色気たっぷりに)勇利に迫る描写はとても多いです。
勇利の手を取って指にキスをしたり、「唇が荒れてる」と勇利の唇に自分の指先でクリームを塗ってあげたり。
欧米人だから気軽にできるスキンシップの範囲なのかと問われれば、ロシア人であるヴィクトルにとってもこれは一般的なスキンシップ……とは言えない域であることは誰の目にも明らかでしょう。

どう見ても「特別な、そして愛しい人へ対する」スキンシップです。
一方勇利はヴィクトルの誘うような行為の数々をワタワタしながら受け止めているだけ……のように見えなくもないのですが、勇利からヴィクトルに触れる場面がいくつかあります。そのうちのひとつは、前かがみになったヴィクトルのつむじを勇利が指先で押す場面。これは作品の中で(たぶん)2回あります。
1度目は「僕の髪、ヤバイ?!」とハゲることを心配するというコメディタッチな流れに流れていくのですが、「触れたい」という衝動に突き動かされるかのように、理性を忘れて触れてしまうかのように描かれています。

考え方を変えれば、これはスキンシップが日常的で一般的ではない日本人としての勇利が起こした、不自然ではなく相手に触れることができるアクションであるのではないか、と感じられるのです。

そんな勇利ですが、物語終盤ではしっかりと自分からヴィクトルに触れ(詳細は次に語ります)たり、ヴィクトルの長い前髪をかき分けて顔を覗き込むというようなこともしています。
これはある意味、緊張感と興奮でナチュラルな状態ではなくなっている試合前後のリンクの上ではなく、ごく普通の「日常」の中で行われた行為です。
「この人に触れたい」
というのは、とても分かりやすい強い愛情の現れです。
はっきりとしたいかにもBLな言葉がなくても、その奥に流れる気持ちに気づかない人はいないでしょう。



おまじないのペアリング

10話では、グランプリファイナルに出場するために勇利とヴィクトルはバルセロナを訪れます。
試合の前に「一緒に観光をしよう」とヴィクトルを誘う勇利。
そして勇利は一軒の宝石店の前で足を止め、「今までのお礼と、お守り」と称して、カードのリボ払いでペアリングを購入するのです。
二人は教会の片隅で、お互いの右手の薬指に指輪をはめ合います。
勇利は「いままでとてもお世話になったお礼だから」と照れた顔で語り、ヴィクトルはなんとも言えない満たされたような幸せそうな表情を浮かべるのです。
その後に行われたファイナルのSPの前に、リンクに勇利を送り出す前にヴィクトルは勇利の手を取って、指輪にキスをしています。

そうなんです。
コーチと弟子で、スポーツ選手で、これは「成功するためのおまじない」「あがらないためのおまじない」「勝利のお守り」かもしれない。
けれど、それ以上のものがあることを確実に見ていて感じることができるのです。




諏訪部順一が演じたヴィクトルについて


この物語の主人公は勇利ですが、ヴィクトルはもう一人の主人公であるとも言えます。
若いころは髪を伸ばし、女性をイメージさせるような衣装を着て滑ったこともあるヴィクトルは、男性ですがどこか中性的な面も感じさせる美貌を持つロシア人です。
しかし温泉のシーンやプールのシーンで描かれるように、アスリートとしてしっかり鍛え上げられた肉体を持ち、どこからどう見ても「男性」。そんなヴィクトルはいつもにこやかで飄々としていてどこまでも自由です。
諏訪部順一さんがヴィクトルの声優を務めていますが、諏訪部さんと言えば、柔らかな低音が印象的な、BLでは攻め役が多い声優さん。BL以外でもしっかりした体躯のいわゆる「男らしい男」を演じることが多いのではないでしょうか。
それぞれ声優さんごとに違った持ち味がありますが、諏訪部さんが多く演じておられる役柄を見ていると、年上の頼れる男性、落ち着きはらった紳士というキャラクターを担当することが多いように思います。ヴィクトルはまさにその点が諏訪部さんが持つ声質にぴたりと当てはまっています。
いまいち自分に自信を持てない勇利がずっと憧れ続け、そしてコーチとして絶対的な信頼を持って共に歩く存在、ヴィクトル。まさに「年上の頼れる男」なのです。しかも圧倒的な強さを持ちながらまったく俺様なところが無く、いつも穏やかに勇利を見守るヴィクトルは、諏訪部さんの声があったからこそ「選手ではなくコーチとして」の立ち位置をよりしっかりと感じさせてくれたように思います。
ヴィクトルは物語の中で勇利のコーチを務めていますが、引退を表明したわけではなく、選手でもありコーチでもあるという微妙な立場です。勇利のコーチをすると言って日本へ来たのは、自身が滑らないことへの「言い訳」のためなのではないか、という会話が2話でミナコ先生と勇利の間で交わされています。
これがもう少し主張の強い声質の方だった場合、物語全般を通してヴィクトルから選手としての側面が強く感じられたのではないかと思わなくもないのです。
包み込むような優しさを持つ諏訪部順一の声だからこそ、ヴィクトルが「勇利のコーチとして」着地していたのではないでしょうか。




「ユーリ!!! on ICE」がBLアニメとして描かれないからよかったのは、ここ!

 

ひとつ、BLでは描かれない描写だな、と感じたのが、二人は常に対等であるということ。
立場上ヴィクトルがコーチで、選手としても勇利の上をいっていますが、勇利はヴィクトルが禁止したことでも自分がやりたいと思えばやり、言いたいことをはっきりと言い、12話の冒頭ではヴィクトルを泣かせています。
どちらかが受け、攻め、というパートが必ず出来てしまうBLでは、どうしても受けは攻めに守られるもの、という役割分担ができてしまいますが、「ユーリ!!! on ICE」はBLとしては描かれていないため、二人は常に「同士」なのです。

BL好きとしては「やっぱりヴィクトルが攻めだよね、甘くて美貌の自由奔放な攻めと振り回される、ちょいブさで生真面目な受けが勇利で……」なんて考えてしまいますが、BLアニメではない「ユーリ!!! on ICE」では、二人はあくまで対等な1人の人間同士、同じ道を究めている者同士として描かれているんですよね。
そこがまた、なんていうか、いいんですよ。

9話のラストに、非常に印象的なシーンがありました。
ロシアでの大会を終えて、日本に戻ってきた勇利を、一足先に日本へ戻ってきていたヴィクトルが空港で出迎えるシーンです。
入国手続きを終えて自動ドアを潜ってきた勇利とヴィクトルは、どちらからともなく強く抱きしめあいます。

勇利を抱きしめながら、ヴィクトルが静かにこう語るのです。
「コーチとして何ができるのか、考えていたんだ」
すると勇利がこう答えます。
「僕も考えてた」

「引退まで、僕のこと、お願いします」
「プロポーズみたいだね。勇利がずっと引退しなきゃいいのにな」

文字にするとあの雰囲気がまったく伝わらなくて残念ですが、ヴィクトルを演じる諏訪部順一さんの深みのある優しい声と、勇利を演じる豊永利行さんのどこか頼りないあどけなさを感じる声が見事にマッチして(もちろん演技も)、なんともいい雰囲気なのです。
語っているのはスケートのことと二人のこれからの師弟関係のことなのだけれど、明らかのその裏側に流れる
「このままずっと一緒にいたい」
「一緒に時を過ごしていきたい」
「一緒にスケートを作り上げたい」
という気持ちが明確に伝わってくるのです。

スケートの選手として自分の時間と情熱のほぼ全てをスケートに注ぎ込んでいる二人からしてみれば、
「自分の全てをあなたにまかせたい」
「ずっと任せっきりでいてくれていい」
ということとほとんど同じ意味。
これは言い換えれば、「一緒に生きていきたい」ということでもあり、まぎれもなく、愛なんですよね。
どこまでが「恋愛」でどこからが「恋愛ではない」のか、その境目は非常にあいまいで微妙で、認めたくなければ目を逸らすことも知らないふりをすることもできるけれど、極力素直に向き合っていった結果が、この二人の関係なのではないかと、そんなことを感じた次第です。

ジャンルとしてのBLではありませんが、ひとつの愛の形を描いた作品としては、「ユーリ!!! on ICE」はさまざまな要素を含めかなりハイクオリティなアニメーションだといえます。
余談ですが、BLCDに出演していらっしゃる声優さんが、この作品にもたくさん出ているのでそいう点からも腐女子は楽しめる作品ですよ♪

(ライター 矢吹良子)

出典:ユーリ!!! on ICE
公式サイト ユーリ!!! on ICE

勇利 豊永利行 出演BLCD作品
ヴィクトル 諏訪部順一 出演BLCD作品


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